東山昔話
六甲山のひとつ【東山】の昔話
眼下に港の見える景勝の東山はさしたる名山でもないが、山には山にまつわる昔話の尽きるものではない、そもそも東山とは明治初年の新名称、昔々は横尾山に続いていて今の様な別山ではなかったんじゃそうな、
その頃摂津の山々は天狗が支配し、鷹取山天狗と横尾山天狗とは縄張り争いで仲が悪く、遂に綱引きをしてけりを着けようと二つの山の間に張り渡した綱を引き合ったが、酒を飲みすぎた横尾山天狗が敗れそうになり、岩に足を掛けて踏ん張った弾みに山が千切れ、片足を掛けた尽で今の場所に引き寄せられて出来たのが東山となったそうな。
やがて両天狗とも仲直りして、行ったり来たりする内に年を取り過ぎ、一本歯の下駄で山から山を一と飛びで渡るのは疲れるので途中の東山に腰を下ろし、一服吸う様になり煙草の煙が立ち始めると下界が煙って見えなくなるので、村人がいつとはなしに天狗山とか一服山と呼ぶようになったそうな、
やがて世は明治に移り、ある晩、村の衆がお寺に集まり、あの天狗山話は、嘘か誠か夜通し詮議し合ったが、何分天狗を見たという大昔の人が生きていないので埒があかず一同困り果てた。
若い衆は「この文明開化の世に天狗山なんて俺アの村の恥、肩身が狭い」と改名を迫り、親達も「今の時代に天狗山では嫁に来てがネエ」と嘆く始末、いや今改名すれば「御先祖様に申し訳無い 俺ア腹を切らねば」と仏様に手を合わして泣くやらてんやわんやの末、和尚さんが「皆の衆やこの山は横尾山の東に在るでこれからは東山と呼ぼう、仏様も喜ばっしゃるぜ」となだめすかし、一同それが良かろうと手を打ったと言うのが改名異聞じゃそうな、その後で村人は帰ろうとする貧乏百姓の権助を無理に引き留め「のう権助や、天狗は今でもいるぜ、これからはあの山で煙草を吸うでねエど、天狗がお前の顔に似とるで間違われるけん」とからかった、
人の良い権助は聞いたか聞かないのか、爽やかな目をして夜来の雨にすっかり浄められ、折からほんのり淡い月影の浮かぶ美しい天狗山に向かって静かにつぶやいた「あの山には天狗様は必ず御座る、村の衆の目には見えんだけじゃ」やがて月が落ち下界が暗闇になれば峰々を伝う天狗達の高笑い声も俺アの耳には聞こえて来るに違いねエ。
遠き世の 方在しますや 山の辺に 月落ちぬれば 声も聞こゆらし
この歌も至って罪の無い権助と天狗にまつわるささやかな村の夜話じゃそうな、本当やろか。
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