腸漏れは万病の元 By 豊岡 倫郎 氏 2017年7月13日
1. あなたの体の不調は腸もれかも
順天堂大学の研究者の調査で、健康な50人の内2人の血液中から生きた腸内細菌が見つかったという。別の研究所では糖尿病患者50人の内14人の血液中から生きた腸内細菌が発見されたという報告もある。今までの医学常識では考えられなかったことが現実に起こっている。
2. 腸内細菌とは
腸内細菌とは、私たちの腸に住む共生菌で,腸内には約200種100兆個の多種多様な細菌が住み着いていて、その全体像はまるでお花畑のように美しいことから「腸内フローラ」と呼ばれる。その中には善玉菌、悪玉菌、日和見菌がいて、それらが良いバランスを保っていることが健康上重要だと言われている。
3.「腸もれ」とはとういうことか
腸に穴が開いている人が増えている。穴といっても小さな目に見えないほどの穴で、具体的には、腸の細胞と細胞の間にできてしまう隙間のことで、そこから細菌や未消化の栄養素、毒素、腐敗ガス、微生物、病原体などが腸壁から血液の中へ入って行き、体をめぐる。
腸に穴が開くこのトラブルは、欧米では「リーキー・ガット・シンドローム」と呼ばれている。リーキー(Leaky)はもれる、ガット(Gut)は腸、という意味で、直訳すれば、「腸もれ症候群」となる。いま欧米では「多くの重大な病気につながる可能性がある」と注目されている。しかしまだ日本では医療従事者でも名前を聞いたことがないというのが現状である。
隠れ病は「腸もれ」を疑え!藤田紘一郎著 2017年6月発売。
著者は1939年生まれ、現在は東京医科歯科大学名誉教授。
腸にかんする多くの著書がある。今回はこの本を中心にして説明する。
下はこの本の表紙。
4. どうして腸もれが発生するのか
腸内フローラの善玉菌、悪玉菌、日和見菌の組成は日頃の食べ物によって決ま
る。即ち高脂肪、高たんぱく、低食物繊維高糖質の食事は悪玉菌を増やす。
また質ばかりでなく、過食によって消化不良、宿便の停滞、便秘などは腸内
フローラが貧弱化してしまい、腸粘膜の再生がうまくゆかず、腸壁が薄くなり、
細胞間の連結が緩み、穴が開きやすくなる。当然糜爛や炎症も起きる。
5. 腸内細菌の減少とバランス
腸もれには、上述したような食事の乱れで、善玉菌が減り、悪玉菌が増えれば、細菌バランスが崩れて、本来の腸の機能であるところの、病原菌の排除、消化を助ける、ビタミンを合成する、セロトニンやドーパミンの前駆体を作り、脳に送ること、免疫力を高めることなどが低下してまう。
6.. 腸もれが招く慢性炎症とは
腸もれによって、細菌や未消化の栄養素、毒素、腐敗ガス、微生物、病原体などが腸壁から血液の中へ入って行き、体をめぐると、体のいたるところで、炎症が発生する。その炎症も自覚症状がないくらいの弱いものであるが、慢性的に続くという。それも人それぞれによって、多種多様である。これがここ数年前から話題となっている「慢性炎症」という症状である。
7. 慢性炎症が及ぼす数々の病気
●CRP値の上昇
C―リアクティブ・プロテインの略で、体内で炎症が起きていると、
このCRPというタンパク質が増える。長寿者はこの値が低いということで有名
になった指標である。0.3mg/dl以下が基準値である。
●糖尿病のひとには腸もれが多い。大食し、血中の糖分が高いと腸内環境が
良い筈がない。
●がんの原因にはこの腸もれによる炎症と免疫力低下が関与している。
●脳卒中、心筋梗塞・・・血管内の炎症が脂肪を溜め、過酸化脂質に変え、動脈硬化を誘引する。
●肥満の人はデブ菌が多いため肥満を招く。
●自閉症 一歳児ころの抗生物質の投与があると腸内細菌の組成が変わって、影響が続く。
●認知症 血中の異物処理のための顆粒球の活躍が活性酸素を発生させ、脳細胞が萎縮。
●うつ病 セロトニンの90%は腸で産生し、存在し脳へ行く。それが欠乏している状態。
●感染症 腸のバリア機能が低下し、病原菌の排除能力が弱る。
●各種アレルギー
本来腸壁を通過しない異物が血流にのって体内に入ることで、体内の自己免疫システムを狂わせて、いろいろなアレルギー
反応が発生する。この問題については前回説明したように、故甲田光雄博士は腸麻痺、糜爛、キズがアレルギーの元凶と
言っている。
8. 腸もれを防ぐには
日頃の高脂肪、高たんぱく、低食物繊維、高糖質の食事が腸内フローラの善玉菌、悪玉菌、日和見菌のバランスを悪い方向に向かわせることは説明したが、では具体的に健全な腸粘膜や有用な腸内細菌を育てるにはどうしたらよいか。
それは
●腸内細菌が短鎖脂肪酸を作っている。この短鎖脂肪酸は腸壁の上皮細胞のエネルギー源となっている。上皮細胞は腸壁を
保護する粘液を分泌したり、水分や栄養素を吸収したりする重要な働きをしている。そこで先ずは腸内細菌を活性化させ
るために、食物繊維やオリゴ糖を摂ることが、最終的に健全な腸粘膜を作り、腸もれを防ぐことにつながる。短鎖脂肪酸
とは、酢酸、酪酸、プロピオン酸などの有機脂肪酸の総称で、この短鎖脂肪酸には免疫細胞の一種である制御性T細胞の
成長を助ける働きがあり、抗炎症作用効果を発揮する。
●食品添加物を摂らない。現在日本で使用されている食品添加物は450品目以上あり、例えば保存料、甘味料、着色料、発色剤,香料、安定剤、増粘剤などで、大半が原料は石油を使って、工場で大量生産されている。これら食品添加物からなる加工食品は50年以上前には我々が口にしたこともない未知のものであり、腸内細菌のエサになるどころか、保存料に至っては、有用な腸内細菌の繁殖を阻害する。市場に溢れている腐らない加工食品を食べてはいけない。
●白い主食や砂糖は腸を疲れさせる。白米、小麦粉、砂糖、人工甘味料などは白く精製されているものは、糖質の塊といえる。糖質とは炭水化物から食物繊維を差し引いたものをいう。腸のエネルギー源は短鎖脂肪酸であって、糖質ではない。糖質の過度の摂取は、腸は自分のエサにもならないものの為に、せっせと働かざるを得ない状況に追い込まれ、疲れ果ててしまうことになる。
●大量の糖質が体内に入り込むことは異常事態として活性酸素を発生させる。他にも食品添加物も、お酒も、過労も、太陽光も、電磁波も、ストレスも、宿便や便秘も、過食もみな活性酸素を発生させる。活性酸素は遺伝子を傷つけるし、細胞に炎症を起こさせるし、脂肪分を過酸化脂質に変えて、体内いたるところで,気管や組織の退化が始まる。活性酸素の発生をさせない生活を心がける。
●抗生物質の薬は、その強い殺傷力は合成保存料などの比ではないくらい強くて、腸内細菌を弱体化させる。
9.腸の穴をふさぐための食事とは
●水溶性の食物繊維を摂る。腸内細菌の格好のエサとなる。ビタミン類、アミノ酸、短鎖脂肪酸などの栄養素を合成してくれる。品目では、昆布やわかめなどの海藻類、豆類、ゴボウ、サトイモ、ニンジンなど根菜類、ニンニク、梅干しなど。また納豆、メカブ、山芋、オクラ、モロヘイアのネバネバ食品。
水溶性の食物繊維を食べていると腸内細菌は水素を発生させてくれる。水素は活性酸素の害を消してくれる。
●不溶性の食物繊維の摂取も必要である。繊維質が水分を含んで膨張し、腸内の脂分など不要物をからめ取ってくれるし、蠕動運動を盛んにして、腸の働きが良くなる。いま大腸がんが多いのは、高脂肪、高たんぱくの過食で、腐敗物質や腐敗ガスが腸に停滞して、炎症を起こしたり、腸もれで体内に流入して、乳がんにも関係しているというから怖い話である。
品目には、玄米、豆類、イモ類、キノコ類、切り干し大根、おからなどの食品。納豆やゴホウなどは水溶性と不溶性繊維の両方を含んでいるので、一石二鳥である。水溶性と不溶性繊維の比率は1対2が理想的という。1日に必要な食物繊維の摂取量は約20グラムである。
●日本の伝統の発酵食品の味噌や漬物類を摂る。乳酸菌、酵母菌、麹菌などがたっぷり含まれているから、善玉菌の格好のエサとなる。
●オリゴ糖の含まれた食品を摂る。オリゴ糖は熱や酸に強く、胃酸や消化酵素によっても分解されず、腸まで届き、善玉菌を増やしてくれる。品目としては大豆製品の豆腐や納豆、ゴボウ、玉ねぎを摂る。
●酢を料理に使う。酢の成分である酢酸は短鎖脂肪酸の一種であるが、腸内細菌の
活動力を高めて、善玉菌を増やしてくれる。酢を使った酢タマゴハチミツ、酢キャベツ、酢タマネキ、酢大豆などはよくその効能を宣伝しているが、血圧が下がったとか、カルシュウムの吸収を良くして、骨粗しょう症に良いとか、疲れをとるとかいろいろあるようだ。食物繊維プラス酢が効果を倍増してくれるという。しかし酢は毎日すこしづつ摂るとよい。
●小腸の粘膜のエネルギー源は短鎖脂肪酸のほかにグルタミン酸がある。良質のグルタミン酸が含まれている食品は、昆布などの海藻類、白菜、緑茶、イワシ、トマトなどである。納豆にもポリグルタミン酸の形で含まれているのでお薦めである。
●フィトケミカルの食品を摂る。含まれている食品は太陽の光をいっぱい浴びて育った野菜類で、生でも、ことこと煮て、スープと一緒に摂っても良い。できれば皮や茎も一緒に摂る。
腸の粘膜や体内の細胞を荒らす活性酸素の害を消してくれる抗酸化力を持っている。ポリフェノール、リコピン、アントシアニン、イソフラボン、β―グルカンなどの言葉をよく耳にしていると思いますが、これらが含まれている食品を摂って、抗酸化作用を高め、免疫力を強化する。赤ワイン、トマト、ブルーベリー、緑茶、キノコ類などいろいろある。
●炎症を抑える油を摂る。食用油には大きく分けて、三種類ある。正式には油は脂肪酸というが、オメガ3脂肪酸、オメガ6脂肪酸、オメガ9脂肪酸がある。
オメガ3脂肪酸は細胞膜を柔軟にし、炎症を抑える働きがある。オメガ6脂肪酸は細胞膜を固く丈夫にするとともに、炎症をうながす働きがある。この両者をバランスよく摂取することで、柔軟性と強さを併せ持つ、病気にも、炎症にも強い細胞膜を作れるのである。その比率は1対4が良いと言われている。
オメガ3脂肪酸の油とは、アマニ油、エゴマ油、DHAやEPAの成分を含むイワシ、アジ、サバなどの青魚類もこれに含まれる。非常に酸化しやすく、加熱しないで、生で撮るのが望ましい。酸化した油は体内に入ると活性酸素を発生させるから要注意。
オメガ6脂肪酸はサラダ油、大豆油、ごま油など。体の構造に欠かせない必須脂肪酸といわれていて、体内で合成できない油である。比較的酸化しにくいので、一般の天ぷら、フライ、インスタント食品、菓子類、マヨネーズ、ドレッシングなどに使われている。現代人はこの油を摂りすぎていて、万病を招いているといわれる位である。
オメガ9脂肪酸は加熱処理しても酸化しにくいのが特徴で、キャノーラ油(菜種油)、米油、ごま油などがある。ごま油はオメガ6と9の両方の成分を併せ持つ、なおオリーブオイルはオメガ9が8割で、残りはオメガ6を含んでいる。ただしオリーブオイルにはポリフェノール、ビタミンEが含まれていて、腸を温めてくれる効果や腸粘膜の新陳代謝を良くする効果、免疫細胞の活動力を高める働きもある。小腸から吸収されずに大腸まで行くため、腸壁を滑りやすくして、便通を良くする効果もある。
10..腸もれ予防法の決め手はなにか
現代人の七割の人は腸もれを起こしているという報告もある。なぜこんなに多いのか、一言でいえば文明病である。高脂肪、高たんぱく、低食物繊維、高糖質の食事、また質ばかりでなく、過食、過飲、砂糖などで消化不良、宿便の停滞、便秘になり、また過労、睡眠不足、ストレス、運動不足、食品添加物、農薬、排気ガス、電磁波など悪化していく環境改善には・・・。
●大食しない、酒の過飲しない、甘いものは控える、高脂肪、高たんぱくの食事は控える。
●上述したように活性酸素の発生を極力抑え、一方抗酸化食品を摂る。
●腸は非常に神経過敏につき、ゆったりと心の安寧を心がけた生活を送ることが大事である。
●胃腸の弱い人には自彊術のような家で手軽に行える健康体操は必須条件である。
11..まとめ
1)こうして見てくると、日本の伝統食がお薦めであるが、加えて生野菜ジュースも必要。甘いお菓子類が如何に腸に
悪いかを知らない人が多い。止めない限り腸は良くならない。
2)腸内細菌が活性化する最適温度は37度である。冷たいジュース、ビール は極力控える。
3)アレルギー疾患の治療には腸もれの解消が先決である。遅延型アレルギーがあり、アレルギー食品を食べてから24時間位経過して発症する為、医者も誤診するケースが多い。倦怠感、めまい、口内炎、うつ症状、吐き気、目の渇き、肌荒れ、過敏性大腸炎など起きる。
4)腸漏れがない大便とは水分60%、腸内細菌の死骸20%、粘膜細胞の死骸15%、食べカス5%である。量はバナナ3本分、色は黄褐色、匂いはかすか、ゆっくり水に沈むもの。
5)「腹も身の内」という言葉がある。自分の身内を苛めていては自滅してしまう。そして食を制する者は腸を制し、
更に万病を制するという事 だろうか。
おわり
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