平成4年(その2)
・背を向けてとぼとぼ帰る娘の姿
眼に浮かべつつ もうろうとなる
・金銀財宝は自分独りのものにあらず
されど病苦は自分独りの負う宿命である
苦しくとも天が召さない限り耐えねばならぬ
人間の宿命でもある
・庭下駄の雨に曝され 濡れ塗げし
履く主のなき月日思わる
・梅雨明けし爽やかなる日に臥す吾の
おくれ毛ゆすり微風通りぬけゆく
前田 百花 本名:前田 ゆり子
1914年12月02日 香川県坂出市生まれ
1993年04月06日 没
平成4年(その1)
・遠き日に逝かれし母の面影を
臥して想う今日母の日に
・滝壷より流れ出る清き流れに木洩れ日が落ち
きらきらと揺らめく
・4弁の花びらを持つアジサイは
梅雨に生気を放つがに見ゆ
・鉄砲百合甘き匂ひを吾部屋に
満ちて香りにむせぶほどなり
・ アジサイと百合とあやめの活けし部屋
梅雨に咲く花いづれもたくまし
前田 百花 本名:前田 ゆり子
1914年12月02日 香川県坂出市生まれ
1993年04月06日 没
昭和63年(その28)
・暮れゆける瀬戸の大橋黒々と
浮かび上らせ西陽落つ
・うねうねと島伝いつつ霞ゆく
瀬戸大橋の朝の試運転車
・日没の山の彼方に一群の
雲残光の輪に浮く
・大方に秋の祭りも済みたれば
野は刈入れに轟音響く
前田 百花 本名:前田 ゆり子
1914年12月02日 香川県坂出市生まれ
1993年04月06日 没
昭和63年(その27)
・億万に比すれば笹の露ほどの金策に悩む娘の心いとし
・遊園地あそび疲れし孫の夢は
・手入れせし緑樹の庭や梅雨の宿
・緑樹の形整う梅雨の宿
・病む身には一日一日が命かな
前田 百花 本名:前田 ゆり子
1914年12月02日 香川県坂出市生まれ
1993年04月06日 没
昭和63年(その26)
・今一度幼なになりて甘えたし
黄泉の国なる母なる人に
・短か夜の明けゆく刻にふかぶかと
夢を見ている離れ住む娘の
・梅雨明けに瘉える事なき腰痛を
おして旅路にい出て駈け行く
・株分けしくちなしの花 娘の家に
今を盛りに匂ひ顕ち来る
・梅雨雲のちぎれし奥に碧湖あり
前田 百花 本名:前田 ゆり子
1914年12月02日 香川県坂出市生まれ
1993年04月06日 没
昭和63年(その25)
・梅雨晴れの陽光樹々の葉に映えて
やさしき風のその面を撫ぐ
・莫山の書を見ればとてその道に
暗きが故に哀しかりけり
・年経りて人形の唇色退せぬ
紅持てそっと塗れば活きづくや
・母を恋ひ頼りにせし日もはるかにて
七十路の吾は誰に甘えん
・孫が呼ぶ「お母さん」とう声聞こゆ
頼れる人のあるを羨やむ
前田 百花 本名:前田 ゆり子
1914年12月02日 香川県坂出市生まれ
1993年04月06日 没
昭和63年(その24)
・梅雨空の夕べに啼けるウグイスの
季節はずれの声のやさしさ
・泰山木の新葉に照り映ゆ
梅雨晴れの光 宿りし花の輝き
・若き日は名所めぐりて旅せしも
年経し今は回想に生く
・碧空を自由に駆ける鳥達の
日々の姿を吾は羨まん
・梅雨激し ひさしに並ぶ雀等は
人の如くに雨宿りいる
前田 百花 本名:前田 ゆり子
1914年12月02日 香川県坂出市生まれ
1993年04月06日 没
昭和63年(その23)
・鳥取の山田輝子氏の短歌を読めば
病弱の吾とは異なる生活羨し
・病室の壁に移ろふ夕陽の残光薄れ
長き日は暮るる
・高きより垂れて咲きいるえにしだの
黄の花の色雨後に鮮やか
・暫くの留守の庭には木の繁み
人の住まざる如くに暗し
・欲得も世間のこととひたすらに
病床にあり痛みに耐ゆる
前田 百花 本名:前田 ゆり子
1914年12月02日 香川県坂出市生まれ
1993年04月06日 没
最近のコメント